MSレポート NO.12

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ここでいう品質マネジメントシステム(QMS)とはISO9001:2000版に基づいています。

<T病院>緑内障の男性患者に、左右の目を間違え手術
手術
T大医学部付属病院は6月11日、緑内障の70代男性患者に対し、手術予定の左目ではなく誤って右目の手術をする医療事故があったと発表した。病院は、原因究明のため、調査委員会を設置した。
病院によると、手術は6月6日に実施。手術部位を間違えないよう、手術前、患者の左のこめかみに黒色のペンで丸印をつけていた。その後、30代の男性消毒担当医は左目を消毒。しかし、右目を露出させて布を置いてしまった。さらに、40代の男性執刀医は丸印の確認を怠り、消毒していない右目を手術。布がこめかみを覆い隠し、黒色の丸印が見えなかったため、ミスに気づかなかった。
患者は両目とも末期の緑内障で、右目も手術を検討していた。7日に左目の手術も行い、両目とも問題は起きていない。消毒担当医は「何でそうなったのか分からない」、執刀医は「つい確認を忘れた」と話しているという。
手術翌日、眼帯が右目にされているのを不審に思った患者の妻の指摘でミスが判明した。(6月11日付新聞記事より)

今回の事故は、消毒担当医のミスと執刀医のミスが重なって起きた事故です。「手術しない目(消毒しない目)には布を置く」「手術する目には黒色の丸印がついているので、執刀する前に確認する」などの、決められたルールを守らなかったために起きた事故といえるでしょう。確かに人間ですから、うっかり間違うこともあります。それでも、医療事故の場合、人命にかかわる事もあり、「うっかりしていた」では済まされない場合が多くあります。
また、製造やサービス提供の現場でも、「うっかりミス」が大きなトラブルに発展することもあります。そういう意味では、医療の現場も製造/サービスの現場も、誰かが「うっかりミス」をしても、そのミスを見つけて、最終の製品/サービスの品質に影響がでないようにするための仕組みを考えるという点では、共通だと思います。
そこで今回は、うっかりミスを防ぎ、誰が担当しても同じ結果が得られるようにするためには、どうしたらいいのかを、T病院のQMSから考えてみたいと思います。

※「品質マネジメントシステム」(QMS)とは、「お客様に満足・感動・安心・信頼していただくために、きちんと仕事をする」という前提のもと、そのためのしくみや手順、ルールを決めたものです。「品質マネジメントシステム」には、業種を超えた共通の、事故・トラブルを未然に防ぐヒント(要求事項)があります。
以下、 は、その「品質マネジメントシステム」が示している要求事項の意訳です。

手術組織は、製造やサービスを提供する際に、取り違えるおそれがある事や物について、適切な方法で見分けがつくようにしなければなりません。製造工程やサービスの過程で、間違った物を使ったり、間違った事をすると、その品質に大きく影響するからです。例えば、製造であれば間違って出荷しないように、検品の状況(検査前/検査中、検査結果OK/NG)を見分けるようにすることがそれに当たります。
今回の場合は、「手術する方の目に黒い丸をつける」というやり方で、見分けがつくようにしていましたが、手術する目(消毒した目)に、間違って布を置いてしまいました。結局、執刀医が見て手術する目が一目でわからなかったということは、その方法が効果的ではなかったと言わざるを得ません。例えば、顔面に置く布を一目でわかるような形にして(右図参照)、手術当日には、該当の布だけを用意するというルールを作るなどの方法もあるかと思います。

識別及びトレーサビリティ
組織は、製品実現の全過程において適切な手段で製品を識別すること。組織は、監視及び測定の要求事項に関連して、製品の状態を識別すること。

組織が、製品を製造する/サービスを提供することを決めた時、まずその実施方法や基準を決めます。しかし、決めた通りに実行するためには、実際に業務に携わる人が、必要な情報を知ることができ、必要な手順書、設備が使えることが大切です。また、計画通り実施されているかどうかを確認するための方法や基準も決めた方がいいでしょう。
今回の場合、執刀医は「つい確認を忘れた」と話していますが、もしかしたら、普段から前工程(消毒担当医)に依存して確認を怠っていたようにも感じます。また、執刀医が間違って手術していたにも関わらず、その場にいる誰もが、その間違いに気づきませんでした。その点からも、医療チーム全員が、手術前のミーティングなどで、手術計画や使用する設備・道具などが確認されていたのか疑問です。もし、「今日は左目を手術する」と医療チーム全員で確認し合っていたなら、チームの誰か一人は間違いに気づいたのではないでしょうか。

製造及びサービスの実施
組織は、製造及びサービスの実施のための方法や基準を決めること(計画)。また計画通りに実行すること。そのために、必要であれば次の点を実行すること。・製品の特性を述べた情報が使えるようにする ・作業手順を用意する ・適切な設備が使用できる ・次工程に引き渡す方法を決める など。

 うっかりミスを防ぐには
今回の事故は、誰もミスを犯そうと思っていたわけではありません。
ただ、誤りに気づかなかった・・・。では、ミスを犯す前に、その誤りに気づくためにはどうしたらいいのでしょう。それには、「うっかりミス(ポカミス)を、自動的に避ける仕掛け=ポカヨケ」を考えることが一番効果的ではないでしょうか。
例えば、「該当の道具を使わないと型がハマらず次工程に進めない」などの「物理的」な仕掛けや、口頭や表示・音などで注意喚起を促す仕掛け、作業内容をチェック表で確認しなければ次の工程へ進めないなどの方法です。業種や業務内容によって様々な仕掛けがあるかと思いますが、結局は「どうしたら、うっかりミスをなくせるか」という取り組みを組織全体で地道に活動し続けることが大切だと考えます。特に、間違いを犯すと取り返しのつかない仕事では、二重三重のポカヨケ対策が必要です。
今回の事故後、病院は原因究明のため、調査委員会を設置したとのこと。
ぜひ「ポカヨケ」を二重三重に考えてほしいものです。

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